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それは、突然の出来事だった。
伍番の世界で異変が起きたのだ。
…僕たち"ポーラン・ウシア"は、全ての"ポーラン・ウシア"と記憶、視覚、聴覚を共有している。それは決して、自分のものと混ざらず、しかし膨大な量の情報に目が回る事もない。それはそれは不思議な現象だが、自分が"ポーラン・ウシア"となった時から、それは当たり前と認識してしまうのだ。
だからこそ、その時刻になって、伍番の世界が途中から暗転していることに気がついた。
(死んだのか?)
(そうみたいですわ…けれど、戦争や殺人、自然災害……という訳でも無さそうですの)
複数の声が脳内に響く。それは他の"ポーラン・ウシア"の声だった。便宜上、番号で呼び合っているが、世界に順番があるわけではないし、それぞれ本名は別にある。しかし何故か、それが普通になっていた。コードネームのようなものだ。
(最期の記憶……これじゃない?)
___見たことがない男と向かい合う、伍番の"ポーラン・ウシア"。確か、彼の世界は、紛争が長く続く治安が悪い世界。
『君、こんな時間に何をしている?』
伍番は、銀髪の人間に話しかけた。背から男だと思っていた者は、振り返ると大層綺麗な顔をしていた。 しかし服装は、その世界の軍人だった。軍人であるならば、伍番の記憶にあるはずで、当然僕も見たことがあるはずだった。
(誰だ…?)
だが、誰もが声を揃えた。
アシンメトリーに垂らされた横髪を、白い紐で三つ編みに結い、片眼を長い前髪に隠した、黒に近い色をした銀色の髪。存外大きい、血のような色をした瞳をぱちりと瞬かせて、伍番を見ていた。膝元まで伸びる羽織は、立派な将校が身に付けるものだろう。所作も何処と無く、気品を感じた。
「何を…。別に、何もしていないけれど、何か問題があったかな?」
『ここは、関係者以外は立ち入り禁止だ。君は軍の者じゃないだろう?何故軍服を着ている』
「何故?真似をしたんだよ、ここの人たちの」
真似を…?この男が何を言っているのかまるで理解不能だった。高くも低くもない、女性的とも男性的とも言えない声は、どこか楽しそうに響く。
「なかなか良いね、気に入った」
くるくると回って服を見せびらかす彼に、伍番は人知れずため息をついた。観光客か、好奇心の強い危険な人物か。ともかく伍番は外へ出そうと、彼の肩を掴んだ。……その瞬間、視界がブレた。
「あれ、どうしたんだい」
伍番が声を見ると、彼が見下ろしていた。本当に何が起こっているのか分かっていない顔で。
状況を把握するべく、伍番が自分の周りを見回した。どうやら地べたに這いつくばっているらしい。そして何故か、地面には…"自分"の掌には、浅黒い液体が滴っている。
「あれ、そっか。そんなに脆いんだ。ごめんね、命と接するのって初めてだから、勝手が解らなくて」
遠くでそんな声が聞こえた。視線がゆっくり、伍番の下肢へ映されていく。血みどろの中心では、眼を覆いたくなるような光景があった。見た瞬間に、伍番は意識を失った。
……そうして電源が落とされたモニターのように、ぷつりと消えた。しばらくすれば、別の人間に移されるだろう……。
(今のは何だ?)
あっという間だった。伍番の下肢が…正確には下腹部が斬り離されるまで、数秒とかからなかった。その軌道すらも見えなかった。
(伍番の世界に、あんな化物が…)
そう思った瞬間、拾番の世界が悲鳴を上げた。そこにもまた、あの男が映っていたのだ。こちらを認識すると、にっこりと笑う。
「あれ?また会ったね」
まるで僕らが"同じ人物"であるかのような言い方だった。それは事実なのだが、その事を知っているのは、政府か警察か軍か、それに准ずる組織のみのはずだ。…なら、やはり奴は組織の人間?……と思ったが、そうすると1つの疑問が生まれる。
『伍番の世界にいたあなたが、なんでここにいるの…!?』
僕たちは繋がっているが、世界は繋がっていない。
ならば何故、目の前の人物はそこに立っているのだ。
底知れぬ恐怖が、全てのポーラン・ウシアに芽生える。奴は何だと、脳内で警報が鳴っていた。
「何故って……越えてきたから?その世界というものを。…っていう回答で良いかな」
幼子がするような仕草で、首を横にこてんと傾げながら長身の人物はそう告げた。ゆっくり近づいてくる奴に対し、臆病な拾番は刃を向けた。
『こっ、来ないで…!!』
「…?それ、初めてみるなぁ。何て言うんだい?光が反射して、キラキラしてる」
異様に据わった目で、向けられた刃物を見つめている。まるで恐れを知らないように、じっと切っ先を見つめている。見ている僕たちの方が、恐ろしいと感じてしまう程に。
しかし、刀が振り下ろされるその刹那、"自分"の腕が宙を舞った。どしゃりと崩れる体が目の前で震えた。そうして、拾の世界は暗転する。
次は自分かもしれないと、僕たちは恐怖した。
こつり、と背後で足音が響く。僕は勢いよく振り返って、絶望した。
「やぁ。また会えると思っていたよ」
軽やかに手を上げた諸悪の根元は、僕の顔をみて安心したように笑顔を浮かべた。はっきりとした敵意はないが、彼は確かにふたりを殺した。なら、自分は彼を止める義務があるだろう。
「止まりなさい」
「…うん…?また知らないものだ。それは…カタナ、っていうのとは違うね」
僕が銃口を向けると、彼はまた興味を示した。子供でもないだろうに、彼の言動は何処か子供じみている。
「ああ、わかった。それは命を奪うものだ。じゃあ君は僕を殺そうとしているのかな」
ぞわり、と背筋が凍る。僕は危険を察知して、銃をおろした。にこり、と目の前の男は微笑む。
「懸命な判断だね。君とはお話が出来そうだ。…最初の"君"には悪い事をしたね。急に掴まれたから驚いて、しまったんだよ。けれどどういう了見だい?少しばかり体を短くしたら、返事をしなくなってしまったんだ。あれが睡眠というものかい?」
まるで訳が解らない、と言わんばかりに、彼は両手を広げた。
「…死んだんですよ、伍番は」
「死んだ?………ああ、あれが死なのか!へぇ、なるほど。死んでしまったんだね、可哀想に」
「…そう、貴方が殺した。だから貴方は罪人、殺人者」
「罪人…?ふふ、けれど彼も罪人だったよ?」
奴は目の前で、不気味な笑みを見せた。
「私が殺せる、のは、罪人のみなんだ」
「…は?」
「殺せる、って使い方は合ってるよね?死なせてしまうことだろう?私は、罪人しか殺せないよ」
「…あいつが、罪人な訳……罪は何だと言うんです…!?それに、拾番だって……」
「殺人と薬の売買…それから脅迫ってところだね。心当たりは、あるはずだろう?」
…確かに、伍番には奇怪な行動が見られた。死体を目にする頻度も一番多かった。よく頭が回る奴で、変な連中とつるんでいるのも見たことがある。
「君が拾番と言った子は、精神安定剤と謳った薬をやっていたみたいだ。ええっと…これは、ほうりつ、で認められていないものだね」
まるで見ているように奴は言葉を連ねる。拾番は「精神剤」を服用していた。その瞬間は視界が歪むから何だろうと思ってはいたが、そういった感覚だけは共有されないので特に問題視していなかった。
「君は……うん、さっき私に殺すものを向けた以外は、大丈夫そうだね?」
まるで品定めでもするかのように、彼は僕を見下ろした。蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
「貴方は…何者ですか?何故、別世界の"僕"とも出会える?」
赤い瞳を歪めて、彼は楽しそうに笑みを見せた。
「私は"審判者"。神も人も怪物も、世界ですらも私の前では罪者か徳者かでしかない。ずっと観ていたけれど、漸く姿を手に入れたんだ」
意味深な笑みを浮かべる彼は、見せつけるかの如く、両手を広げていく。
「…では、貴方の名前は…?」

「名で呼びたいのなら……そうだな、"ミーノース"、"アイアコス"、"ラダマンテュス"……どれでも好きに呼べば良いんじゃないかな?」

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